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東京高等裁判所 昭和48年(ネ)2395号 判決

控訴人(債務者) 富士スパイラル工業株式会社

被控訴人(債権者) 岡崎確道

原審 静岡地方昭和四八年(モ)第四四二号(昭和四八年一一月六日判決)

仮処分申請 静岡地方昭和四八年(ヨ)第六八号(昭和四八年七月二〇日決定)

主文

1  原判決を取消す。

2  本件について静岡地方裁判所が昭和四八年七月二〇日にした仮処分決定を取消す。

3  被控訴人の本件仮処分申請を却下する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

5  この判決は、第二項について仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

控訴人は、主文同旨の判決および仮執行の宣言を求め、被控訴人は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

第二  当事者の主張および疎明は、次のとおり補充するほか、原判決の事実摘示記載のとおりであるから、ここに引用する。

(控訴人の主張)

一  本件特許の技術的範囲

本件特許公報の特許請求の範囲に記載されているスパイラル紙管製造機の構成は、詳細な説明に記載された本件特許の解決したとする技術課題・作用効果に対応したもので、その一つづつの構成がどのような作用効果を達するためのものであるかが明瞭になつている。すなわち、二本のベルトの牽引力の動く方向を逆にした構成は、平行二本ベルト四プーリー式の欠点が二本のベルトが平行に架設されていることから生じるのであるから、二本のベルトの巻方を逆にすることにより、「軸芯に及ぼす牽引は十一零となり、巻芯は何れの方向へも彎曲することなく常に真直を保持することができ、依つてできた紙管は歪なく、常に真直である大なる効果があり、斯く真直に進行成形さるる紙管は中間に於いて、重合成形せる紙材間に常に動きがなく間隙糊付不良部分の有する余地なきもの」(公報一頁右欄二五行~三〇行)という効果(以下「第一の効果」という。)を達成するためである。また、一つの基点プーリーを設けた三プーリー式の構成は四プーリー式の欠点が第一のベルトと第二のベルトが無関係の二組のプーリーにより架設廻転することによるものであるから、二本のベルトを基点プーリーにより常に廻転を同調せしめることにより、「一方のベルトがスリツプしても他方のベルトは基点プーリーによつて常に同調せしめられ両ベルトの廻転は常に同一であるから、相互関係上相牽制して進行不能に陥るが如き欠点なく」(公報一頁右欄三二行~三五行)、という効果(以下「第二の効果」という。)を達成し、「更に両ベルトの不同調に基く製品の一方側への膨上り等の製品の不良化を起す欠点もなく」(公報一頁右欄三六行~三七行)という効果(以下「第三の効果」という。)を達するためである。さらに、二本の腕の相互の角度を任意調節し得る様にしたのは、使用上の便宜といつた附随的効果のためである。このように、請求範囲に記載された各構成の一つでも欠けば、その目的とする作用効果を達し得ないものであるから、請求範囲記載の事項は全て必須の要件と見るべきものである。

従つて、本件特許は、特許請求の範囲の記載そのままをその要旨とするもので、その構成の一つでも相違するものは、本件特許の技術的範囲外のものとなる。

二  本件特許と(イ)号製品との比較

(一) 構成の対比

(イ)号製品と本件特許とを対比すると、各ベルトが巻芯外周を一巻するように架設されており、始ベルト8と末ベルト9の巻芯から離れる方向、すなわち、牽引力の働く方向が巻芯を基準として反対側になつている点では、本件特許のベルトの巻方と類似しているが、次の点で差異がある。

(1) 本件特許は三つのプーリーよりなつているのに対し、(イ)号製品は四つのプーリーを有している点で相違がある。すなわち、本件特許では、一側に一個の基点プーリー3、他側に始末二個のプーリー4、5を備える三プーリー式であることが請求範囲に明瞭に記載されているが、(イ)号製品は、各側に二個、合計四つのプーリーからなつている。

(2) その結果、(イ)号製品の各プーリーは一つが基点プーリーで他方が始末プーリーといつた関係はない。すなわち、(イ)号製品には本件特許でいう基点プーリーたるものはない。

(3) 本件特許では、二本の腕6、7は基点プーリー3より出てV字状に構成されているのに対し、イ号の二本の腕6、7は支軸10により取付けられ、互に交叉し、X字状になつている。従つて、本件特許では支軸10がなく、二本の腕の角度調節は、基点プーリーを中心として行われ、基点プーリーは、角度調節に際して移動しないのに対し、イ号は、支軸10を中心に角度調節を行い、プーリー3、3′は腕の角度調節により移動する。

(4) 以上(1)~(3)のプーリーの数、腕6、7の構成の相違により、当然二本のベルトの架設方式も異る。すなわち、本件特許では始末二個のプーリー4、5に架設されている始末二本のベルト8、9はどちらも一個の基点プーリーとの間に架設されているのに対し、(イ)号製品では対向する無関係な二組のプーリーに全く別々に架設されている。

このように、、(イ)号製品は本件特許が必須の要件とする構成と多くの点で全く異る機構のものであつて、両者の作用、効果を比較するまでもなく、この構成上の差異のみからしても、明らかに(イ)号製品は本件特許の技術的範囲外のものであるといえる。

(二) 作用効果の対比

本件特許の作用効果として公報に記載されている事項のうち、二本のベルトにより、二点で巻締し、紙管を固巻きしようとする目的では、(イ)号製品と本件特許は同一の作用効果を目的とする。また、二本のベルトの巻芯の離れる方向が、巻芯を基準として、反対側となつている点においては本件特許と(イ)号製品は同様であるから、このことによりもたらされる効果も共通するものがある。すなわち、従来の平行二本ベルト式の第一の欠点であつた巻芯を一方向に弾圧彎曲せしめるという欠点は、二本のベルトの牽引力の働く方向を反対として、互に相殺させることによりこれを解決している。

さらに、(イ)号製品も本件特許も、二本の腕のなす角度を任意調節し得るようになつているので付随的操作における便宜(付随的効果という点でも同等なものである。

しかしながら、本件特許は一個の基点プーリーと二個の始末プーリーより成る三プーリー式のものであるのに対し、(イ)号製品は四プーリー式であるので、本件特許が三プーリー式にしたことにより達したとする効果は奏し得ない。すなわち、従来の四プーリー式の欠点は二本のベルトの牽引力の働く方向が同一であること(平行式)による欠点ではなく、二本のベルトが無関係の二組のプーリーによつて架設廻転することにより生じるものである(公報一頁左欄三五行以下)が、この点については、(イ)号製品は何等従来の四プーリー式のものと差異がない。従つて、四プーリー式の欠点に対応する本件特許の効果、すなわち、「一方のベルトがスリツプしても他方のベルトは基点プーリーによつて常に同調せしめられ両ベルトの廻転は常に同一であるから、相互関係上相牽制して進行不能に陥るが如き欠点なく」、「更に両ベルトの不同調に基く製品の一方側への膨上り等の製品の不良化を起す欠点もない」という効果を(イ)号製品は備えていない。

のみならず、(イ)号製品は、本件特許の構成では奏し得ない次のような優れた作用効果を有する。

(1) 四つのプーリーが支軸10を支点として交叉する二本の腕6、7の両端にそれぞれ相対して取付けられ、この相対する二組のプーリーに始末二本のベルト8、9が架設されてX字状になつているので、ベルトの交点付近に巻芯を位置させることによつて、二本のベルトの二つの巻圧位置間の距離を無理なく近接することができる。

(2) 四プーリー式で二本のベルトが独立した二組のプーリーに架設されているので、二本のベルトの速度を異ならしめることができる(本件特許では二本のベルトの速度は常に同一である)。

(3) 腕の角度調節が巻芯に近接した支軸を中心として行われるので、角度調節による巻圧位置の変化が少ない。

(4) 二本のベルトが全体としてX字状になつていて、巻圧点がベルトの中間付近にあるため、プーリーと巻圧点との距離が十分に確保されベルトの巻芯に対するなじみが良好である。

(5) 以上(1)~(4)の特質から、(イ)号製品は良質の紙管を高速で製造することができ、しかも機械の汎用性が高い等の優れた機能を有するものである。

三  結論

以上述べたとおり、(イ)号製品は本件特許とはその構成及び作用効果を異にするものであつて、本件特許の技術的範囲外のものである。

(被控訴人の主張)

一  本件特許は公報の発明の詳細な説明の記載から明らかな如く、四プーリー式とはいわず、平行二本ベルト四プーリー式の欠点を修正するためにこの発明をしたことを明言しており、この欠点を克服するのが第一の作用効果である。しかも、その発明の目的として、「巻製後の紙管に歪を生ぜしめず始より真直状に成形せしめると共に糊目の完全に密着した良質の紙管を簡易なる装置により製造せんとするにある」といつているが、この目的達成のために直接必要な作用効果は第一の作用効果で、第二、第三の作用効果は関係がない。従つて、本件特許の重要な作用効果は第一の作用効果であり、第二、第三の作用効果は附随的なものである。よつて、均等方法であるか、どうかの判断の際に考慮すべきは第一の作用効果であり、第二、第三の効果は殆んど考慮する必要はないのである。

二  また、公報に記載されている控訴人のいわゆる第二、第三の作用効果は附随的なものであつたために十分な検討がなされず記載され、又そのまま登録されてしまつたのであるが、その誤りであることは公報の記載自体から自ら明白となつている。すなわち、公報の発明の詳細な説明中に、「又二本のベルト8、9は基点プーリー3によつて常に同調せしめられ、両ベルトの廻転は常に同一であるから、相互関係上、相牽制して進行不能に陥るが如き欠点なく」、「更に両ベルトの不同調に基く製品の一方側への膨上り等の製品の不良化を起す欠点もなく」という記載がある。そして、この部分の記載を控訴人は第二、第三の効果と主張されるのである。しかし、この記載を詳細に検討すると、この記載自体から、このような作用はないことが明白となる。すなわち、この記載は一方のベルトがスリツプをした場合においても、なお基点プーリーが一個であることから他方のベルトは基点プーリーによつて、もう一方のスリツプしたベルトに同調させられ、両ベルトが相牽制して進行不能になつたり、又製品の一方側への膨上り等による不良を起す欠点がないと説明しているのである。そして、このような作用がないことは少し考えれば明らかである。すなわち、ベルトがスリツプをするということは基点プーリーの廻転と関係なく、ベルトが滑つてしまうことを云うのであるから、始末両ベルトが別個のベルトである以上、両ベルトが一個の基点プーリーにかけられても一方のベルトがスリツプした場合、他方のベルトは基点プーリーの廻転に従つて進行してしまうのであるから、一方のベルトがスリツプした場合には両者は決して同調することはないのである。このことは基点プーリーが一個であろうと、二個であろうと全く同じである。従つて、ここに記載してある作用効果は全くあり得ないことは公報の記載自体から明白であり、均等方法の判断の材料に、この作用効果を考慮に入れる必要性はない。(被控訴人は誤解を避けるため、この記載の訂正の審判の申立をしているが、この審判をまつまでもなく考慮の必要はない)

三  以上のとおり、本件特許も(イ)号製品も作用効果としては控訴人のいう前述第一の作用効果を有するもので、全く同一の作用効果をもつものであるということができる。

よつて、本件特許と(イ)号製品とは結局一個の基本プーリーを二個に分断したという設計上の微差が存するほかはその構成も作用効果も同一である。

(疎明)〈省略〉

理由

一  被控訴人が、その主張通りの本件特許を有すること、および控訴人が被控訴人の主張通りの(イ)号製品を製造していることは、当事者間に争いがない。

二  本件仮処分における被保全権利の有無は、(イ)号製品が本件特許の技術的範囲に属するか否かにある。

そこで、本件特許と(イ)号製品とを対比することとする。本件特許と(イ)号製品とがそれぞれ被控訴人の主張するとおりの構成を有することは、当事者間に争いがない。この両者を比較してみると、本件特許と(イ)号製品は、静止状の巻芯の一側方に駆動プーリーを、該巻芯の他側方に始末二個のプーリーをそれぞれ設け、該始末プーリーを相互の角度を任意に調節することができるようにした二個の腕に支持させ、駆動プーリーと始プーリーとにわたり巻芯外周を一巻する状態において始ベルトを架設し、駆動プーリーと末プーリーとにわたり巻芯外周を始ベルトと逆方向に一巻する状態において末ベルトを架設している点で構成を同じくする。しかしながら、(一)駆動プーリーは、本件特許では一個で基点プーリーと呼称されその位置は不動であるのに対し、(イ)号製品では、二個でその位置は移動できるようになつており、(二)本件特許では始末プーリーは、基点プーリーよりV字状に出る二本の腕に支持されているのに対し、(イ)号製品では始末プーリー4、5と駆動プーリー3、3′は交叉するところで支軸10で枢着されている腕6、7の両端にそれぞれ取付けられ、二本の腕および駆動プーリーと始末プーリーにそれぞれ架設されている二本のベルトはX字状を呈している点で構成を異にしている。したがつて、(イ)号製品は、本件特許の「静止状の巻芯の一側方に一個の基点プーリーを設け、」という構成要件を欠くものといわなければならない。

三  被控訴人は本件特許と(イ)号製品とでは駆動プーリーの数に相違はあるけれども、その作用効果は全く同一であり、前記構成の差異は設計上の微差に過ぎず、両者の置換は極めて容易であるから、(イ)号製品は本件特許の技術的範囲に属すると主張し、その作用効果について二点を挙示している。

第一の作用効果は巻芯外周を一巻する始ベルトと末ベルトの巻く方向を逆にすることによつて巻芯が曲ることを防止し紙管を常に真直に保持することができるという点にあり、(イ)号製品もこれと同様な構成を有する以上、これと同じ作用効果を有することは明らかである。

第二の作用効果は両ベルトが巻芯を巻く位置をできるだけ近接させることによつて紙管の糊目が完全に密着し重合部分に間隙の介在しない良質の製品を製造することができるという点にある。しかしながら、成立に争いのない疎甲第二号証によれば、本件特許公報の発明の詳細な説明にはかような作用効果については記載されておらず、むしろ前記効果は両ベルトの巻方を逆方向にすることによつて生ずる旨記載されていることが認められる。したがつて、本件特許に被控訴人の主張する第二の作用効果があると認めるわけにはいかない。

のみならず、同号証によれば、本件特許の作用効果として以上のほかに次のことが記載されていることが認められる。

二本のベルトは基点プーリーによつて常に廻転を同調させられるものであるから、一方のベルトがスリツプしても、他方のベルトは基点プーリーによつて常に同調させられ、両ベルトの廻転は常に同一であるから、相互関係上相牽制して進行不能に陥る欠点がない。さらに、両ベルトの不同調に基く製品の一方側へのふくれ上り等を起す欠点もない。

そして、(イ)号製品においては二本のベルトが別々に設けられた二組のプーリーによつて廻転するのであるから、前記記載の二つの作用効果をいずれも有しないことはいうまでもない。

被控訴人は前記公報に記載された二つの作用効果は附随的なものであるばかりでなく、そこに記載された作用効果は全くあり得ないものであつて、そのことは公報の記載自体から明白であると主張する。しかしながら、前記公報の記載に徴しても明らかなように、被控訴人は本件特許にはかような作用効果があると主張し、これがあるものとして登録が許されたのである。それ故、現実にそのような作用効果が生ずるかどうかは別として、その記載の訂正もないまま自らその作用効果を否定するようなことは、信義則に照して許されないものといわなければならない。

してみれば、本件特許と(イ)号製品とはその作用効果を異にするから、被控訴人の均等の主張は容認することができない。

四  以上の理由により、(イ)号製品は、本件特許の技術的範囲に属さないから、これに属することを前提とする被控訴人の仮処分申請はその余の点について判断するまでもなく、失当であつて、却下をまぬがれない。よつて、これと判断を異にする原判決を取消すこととし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第七五六条の二に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 古関敏正 杉本良吉 宇野栄一郎)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

債権者と債務者間の静岡地方裁判所昭和四八年(ヨ)第六八号特許権侵害禁止等仮処分申請事件について同裁判所が同年七月二〇日した仮処分決定を認可する。

訴訟費用は債務者の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 債権者

主文第一項同旨の判決。

二 債務者

「主文第一項掲記の仮処分決定を取消す。

債権者の本件仮処分申請を却下する。

訴訟費用は債権者の負担とする。」

旨の判決。

第二当事者の主張

一 申請の理由

(被保全権利の存在)

(一) 債権者は、昭和三九年一二月二三日登録第四三五七二八号スパイラル管製造機の特許権を有している。

(二)a 右特許(以下「本件特許」という権利範囲は、別紙特許公報記載のとおり次の五つの構成要件からなつている。

(1) 静止状の巻芯1の一側方に一個の基点プーリー3を設け

(2) 該巻芯1の他側方に始末二個のプーリー4、5を設備し

(3) 該始末二個のプーリー4、5を該基点プーリー3より出て相互の角度を任意調節し得べくなした二本の腕6、7に支持させ

(4) 基点プーリー3と始プーリー4とに亘り巻芯1外周を一巻する状態において始ベルト8を架設し

(5) 基点プーリー3と末プーリー5とに亘り巻芯1外周を始ベルト8と逆方向に一巻する状態において末ベルト9を架設した。

b 本件特許の目的は別紙特許公報記載のとおり

(1) 巻製後の紙管に歪みを生ぜしめず、始めより真直状に製造せしめること

(2) 糊目が完全に密着し、重合部に間隙の介在しない良質の紙管を製造しうること

の二点を簡易な装置によつて達成することにある。

c その作用効果は特許公報にあるように巻製中の紙管12を互に逆に回転する始、末の二本のベルト8、9によつて巻圧すると共に、基点プーリー3を一個とすることにより、特許公報の第二図に示す如く逆行する二本のベルト8、9の巻圧側を相互交叉状となし両ベルトの巻圧位置を可及的に近接せしめる。

そのことによつて、

(1) 始ベルト8と末ベルト9の巻芯1に対する牽引力はそれぞれ相殺され、巻芯1はいずれの方向にも彎曲することなく常に真直な紙管を製造しうる。そのため紙管は後続の自動カツター部への方向を正確に保持し、自動カツター機へ支障なく進入し全過程が自動式となりうる。つまり前記b(1)の目的を完全に満足しうる効果がある。

(2) 始ベルト8の巻圧時より末ベルト9の巻圧時までの時間的経過を短縮せしめ、両ベルト間における糊の固着現象を進行させないようにして、紙管の紙材重合部における間隙又は糊付不良部分の生じる欠点を除去しうる。即ち前記b(2)の目的を満足すべき作用効果がある。

(三) 債務者は、昭和四七年七月ころより別紙(イ)号図面記載のスパイラル管製造機(以下(イ)号製品という)の製造・販売をなしている。

(四) 而して右(イ)号製品の構成は次のとおり五つの構成要件からなつている。

(1) 静止状の巻芯1の一側方に二個のいわゆる駆動プーリー3、3′を設け、

(2) 該巻芯1の他側方に始末二個のプーリー4、5を設け、

(3) これらのプーリー3′、4および3、5は交叉する腕6、7の両端にそれぞれ取付け、腕6、7は交叉点に取付けた支軸10を中心に開閉し角度を任意調節できるようにする。

(4) 駆動プーリー3′と始プーリー4とに亘り巻芯1外周を一巻する状態において始ベルト8を架設し

(5) 駆動プーリー3と末プーリー5とに亘り巻芯外周を始ベルト8と逆方向に一巻する状態において末ベルト9を架設した。

(五) 右の構成を本件特許の構成と比較すると、本件特許では基点プーリー一個を備えるのに(イ)号製品では駆動プーリー二個を備える点が相違するが、その他は同じである。

そこで本件特許と(イ)号製品との間に作用効果上差異があるかどうかを考えると、本件特許の第一の目的・作用効果である紙管を真直にすることのためには両ベルト8、9の巻圧部における進行方向を逆とすることと、後記の如くして巻圧位置を近接せしめることにあるのであり、その第二の目的・作用効果である製品の糊目が完全に密着し重合部分に間隙の介在しない良質の紙管を製造しうる為には、両ベルトの巻圧時の時間的経過を僅少とすることであり、これが為には両ベルト8、9の巻圧側をして交叉状をなさしめて巻圧位置を可及的に近接せしめることである。債権者はこれらの要請を基点プーリー3を一個とすることにより満足せしめ得たのであるが、該一本の基点プーリーの代りに(イ)号製品のように同一方向に回転する二本の駆動プーリー3、3′を設備した場合も同一の作用効果を生ぜしめ得るのであつて、そのことは二個の駆動プーリー3、3′をその中心を結ぶ線の中点を中心とする大型の一個の基点プーリー3に転換した場合も全く同様の作用効果を生ぜしめ得ることからも明らかである。

以上のとおり、本件特許と(イ)号製品とはその構成上基点プーリーを一個とするか二個とするかの設計上の微差以外、その構成・目的・作用効果のいずれの点よりみても全く同一であり、両者は全く同一の発明思想にかかるもので、(イ)号製品は本件特許の権利範囲に属するものである。

(保全の必要性)

(六)a 債権者は申請外岡崎機械工業株式会社の代表取締役をしており、本件特許を実施したスパイラル管製造機は右会社の主力商品である。

b 債務者は、本来紙管の製造を業とする会社であつたが昭和四七年五月より(イ)号製品の製造に着手した。

c 紙管製造の業者は極めて限定されており、債務者の(イ)号製品の製造販売によつて申請会社は顧客を奪われ、莫大な損害を蒙るおそれがあるのみならず模造製品が出ることにより信用を失い、これまた多大の損害を蒙るおそれがある。

d そこで債権者は(イ)号製品の製造販売禁止、損害賠償請求の訴を準備中であるが、仮処分で直ちに製造販売を差止めないと将来たとえ勝訴したとしてもそれだけでは回復し難い損害を蒙るおそれがある。

(七) そこで債権者は静岡地方裁判所に、

「一、債務者は、別紙(イ)号図面記載のスパイラル管製造機の製造・販売・頒布をしてはならない。

二、右スパイラル管製造機の既製品・半製品に対する債務者の占有を解いて静岡地方裁判所執行官に保管を命ずる。

執行官は右物件を封印その他の方法により、その使用・販売・頒布ができないようにしなければならない。」

旨の仮処分申請をし、同裁判所は昭和四八年(ヨ)第六八号特許権侵害禁止等仮処分申請事件として同年七月二〇日右申請を認容する仮処分決定をしたものであるから、右決定は正当であつて認可されるべきである。

二 債務者の答弁および主張

(一) 申請の理由に対する答弁

1 申請の理由第一項は認める。

2 同第二項のa、b、c((2)を除く)は、本件特許公報にその旨の記載のあることは認める。

3 同項のc(2)は争う。

4 同第三、第四項は認める。

5 同第五項は争う。

6 同第六項のaは認める。

7 同項のb、c、dは否認する。

(二) 債務者の主張

a 本件特許の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載にあるとおり、一個の基点プーリーとこれに対する始末二個のプーリーを設けた三プーリー式のものであり、かつ基点プーリーを共通にして始末各プーリーの間に始ベルトと末ベルトを巻芯外周を一巻して牽引力の働く方向が巻芯を基準として前後反対となるよう架設したことである。従つて二本のベルトは全体として基本プーリーと始末プーリーにV型に架設される。

ところが(イ)号製品は交叉二本ベルト、四プーリー式の構造であつて、二本のベルトが巻芯の両側に対向して設けられた一組宛のプーリーに各独立して架設され、中間で交叉し全体としてX型に架設されている。

各ベルトが巻芯外周を一巻するように架設されており、始ベルト8と末ベルト9の巻芯から離れる方向、即ち牽引力の働く方向が巻芯を基準として反対側になつている点では、本件特許と同一であるがプーリー数、プーリーの配置、ベルトの架設方式のいずれも本件特許とは構成を全く別にしている。

(イ)号製品には、本件特許の如く基点となるプーリー(二本の腕を出し、その角度を調節する中心となる)は存在せず四個のプーリーは同等にベルトの支持の役目を果たしているだけである。その上、本件特許においては、一個の基点プーリーと明定されていて、四プーリー式を明らかに除外している。

b 本件特許と(イ)号製品とは右の如き構造上の差異があるので、その作用効果も次のとおり異なる。

すなわち、(イ)号製品の方が両ベルトの巻圧位置を無理なく(ベルトの捩れ方に無理を与えないで)かつ容易に(基点プーリーを大きいものと取りかえるというような操作をせずに)、しかもより近く近づけることができる。

このことによつて、(イ)号製品の方が本件特許に優つて、軸芯を反対方向に牽引する力を有効に相殺しうると共に巻圧位置が離れることによつて生ずる欠点(糊の接着が悪くなり紙管にゆるみを生ずる等)を容易に解消しうる。その結果(イ)号製品の方が、紙管製造能力(スピード)において本件特許に比し二倍も多く、しかもできた紙管の品質がよい。また(イ)号製品の方が、細い紙管の製造にも太い紙管の製造にも使える等汎用性が広い。

c 本件特許においては、基点プーリーが一個であるから、二本のベルトの回転速度は同一であることが予定されていて、このことは本件特許の作用効果の一つとされなければならない。

しかるに(イ)号製品においては、二本のベルトはそれぞれ別々に架設されているから、その回転が同調するという作用効果を考えない。むしろ(イ)号製品では駆動プーリー3を同3より僅かながら太くして、末ベルトの速度を始ベルトのそれより若干速くする。その結果紙管は末ベルトによつてやや強く引つぱられ紙管にしわの生じるのを防ぎ巻締めを完全にすることができる。

d (保全の必要性への反論)

本件特許は、債権者が代表取締役をしている申請外岡崎機械工業株式会社が実施しており、債権者自身は直接特許の実施をしていない。従つて債権者が蒙る損害は、間接的であり、かつ後日において、金銭的に回復しうるものであり、またそれは、債務者の長年に亘る多額の費用をかけた技術努力による研究成果の無用化、多額の経済的損失、業界における信用失墜に比して、僅少と言わねばならない。

e そうすると、本件仮処分決定は不当であるから取消されるべきものである。

第三疎明〈省略〉

理由

一 債権者が、その主張通り本件特許を有すること、および債務者が、債権者の主張通り(イ)号製品を製造していることは、当事者間に争いがない。

従つて、本件仮処分における被保全権利の有無は、(イ)号製品が本件特許の技術的範囲に抵触するか否かの判断にかかることになる。そこで本件特許と(イ)号製品とを対比してその異同を検討する。

二 いずれも成立に争いのない疎甲第二号証、同第四号証、同第五号証の一、二、および弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める疎甲第九号証ならびに弁論の全趣旨によれば次の点について疎明がある。

(1) 本件特許と(イ)号製品とはいずれも債権者主張の構成(別紙特許公報、(イ)号図面参照)を有すること。

(2) 右各構成を比較すると、本件特許は一個の基点プーリー3を有するに対し、(イ)号製品は二個の駆動プーリー3、3′を有する点(したがつて腕木6、7がV型とX型の差があることになる)に設計上の差異が存するが、その他の始末二個のプーリー4、5が存する点、該始末二個のプーリー4、5と該基点プーリー3又は駆動プーリー3、3′とを相互の角度を任意調節し得べくなした二本の腕木6、7にその両端で支持させた点、基点プーリー3ないし駆動プーリー3′と始プーリー4とに亘り巻芯1の外周を一巻する状態において始ベルト8を架設した点、基点プーリー3ないし駆動プーリー3と末プーリー5とに亘り巻芯外周を始ベルト8と逆方向に一巻する状態において末ベルト9を架設した点において、同一の構成を有すること。そして本件特許も(イ)号製品も、別紙特許公報第二図、(イ)号図面第二図で明らかなように、二本のベルト8、9がX状に交叉している(この点は腕木6、7の交り方と関係がない)。

(3) 右のように二本のベルト8、9が逆方向に回転すること、二本のベルトがX状に交叉していることによつて、本件特許も(イ)号製品も同様に次の作用効果がある。すなわち、紙管1は始ベルト8によつてプラス(+)方向に引つぱられると次いで末ベルト9によつてマイナス(-)方向に引つぱられ、しかも各ベルトの巻圧する位置が近接しているため、右+・-の力が歪を生ずることなく(始ベルト8によつて+の方向へ曲げられ、さらに末ベルト9によつて-の方向へ曲げられるという彎曲をさけて)相殺されて、真直な紙管ができる。また各ベルトの巻圧位置が近接しているため、始ベルト8によつて紙管を一度巻圧した後間隔をおかずにさらに末ベルト9によつてもう一度巻圧するから、紙管は紙材の間にゆるみをうむ余地がなく糊が密着した良質のものがえられる。本件特許も(イ)号製品も右の作用効果において変りはなく、真直で糊の密着した紙管の製造を目的とすることも同じである。ことに真直ぐな紙管ができることは、紙管製造機につづいて自動切断装置を操作することを可能にする。つまり真直ぐであることによつて紙管は後続の自動切断装置への方向を正確に保持し、支障なくそこへ進入することができるようになつた。

(4) つまり(イ)号製品は本件特許における一個の基点プーリー3を二個の駆動プーリー3、3′に置きかえた構成のものであるが、その作用効果や目的は同一である。

三 もつとも債務者は右認定を争うので、その主張について検討する。

(1) (イ)号製品の方が作用効果がすぐれているという主張(その主張b)について。疎乙第三、第四号証、第一一、第一二号証、第一六号証は前掲疎甲第四号証、いずれも弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める同第九ないし第一七号証、いずれも成立に争いのない第一九ないし第二三号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める同第二四号証と対比すると、いまだ債務者の主張bのように(イ)号製品の方が作用、効果において本件特許よりも優れていると認めるには十分でない。実際の紙管製造においては、本件特許の場合も基点プーリーの太さを変えるなどの応用がありうるし、巻圧位置の近接といつても現実には適度があり、また自動切断装置の性能のこともあつて、本件特許と(イ)号製品との間に能力に優劣がないことがうかがわれる。

(2) ベルトの同調に関する主張(その主張c)について。前出疎甲第九号証によれば本件特許においては始末の二本のベルト8、9はその回転が同調されるのが原則であつて、そのことは(イ)号製品についても同様であるべきことが疎明される。債務者は(イ)号製品においては駆動プーリー3を同3′より僅かながら太くして、末ベルトの速度を始ベルトのそれより若干速くするというが、その詳細を知りえないので、その作用効果を認めるまでに至らない。

(3) 債務者は債権者がその特許請求の範囲の中に一個の基点プーリーと始末二個のプーリーからなる三プーリー式をあげ、ことさらに(イ)号製品のような四プーリー式を除外したと主張する。しかし前掲疎甲第二号証、第四号証によれば債権者が本件発明にあたつて排斥したのは四プーリー平行ベルト式のものであつて(イ)号製品のようにベルトを相互に逆方向に回転し、しかも交叉させた四プーリー式のものではないことが疎明されるので、右主張はあたらない。

四 そうすると、(イ)号製品は本件特許発明の構成のうち一個の基点プーリーを二個の駆動プーリーに置換えたものであつて、その相異にもかかわらず作用・効果および目的において同一であるということになる。そして右置換自体は出願当時において当業者にとつて当然になしうる程度のものであつたと判断することができる。したがつて(イ)号製品は本件特許発明の権利範囲に属し、本件特許発明と抵触するといわなければならない。

五 そこで本件仮処分の必要性につき判断する。

弁論の全趣旨によれば債権者は自分が代表取締役をしている申請外岡崎機械工業株式会社に対し、本件特許の通常実施権を設定しているものの登録はしていないこと、その他債権者主張のaないしdの事実を窺知することが出来る。そうすると、本件仮処分によつて債務者も相応の経済的損失を蒙ることは考えられるが、なお保全の必要性は肯認されるべきである。

六 以上のとおりであつて、本件仮処分申請は理由があり、これを認容した本件仮処分決定は正当であるので、これを認可し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

特許公報――昭三九―一五七九七

(公告昭三九、八、五)

スパイラル管製造機

特願  昭三七―一四六五一

出願日 昭三七、四、一一

発明者 出願人と同じ

出願人 岡崎確道

大阪市東淀川区瑞光通り四の一五

代理人 弁理士 秋山鳳見

図面の簡単な説明

図面は本発明実施の一例を示すもので第一図は要部機構の斜面図、第二図は作業中の平面図である。

発明の詳細な説明

本発明は静止状の巻芯の一側方に一個の基点プーリーを設け該巻芯の他側方に始末二個のプーリーを設備し該始末二個のプーリーを該基点プーリーより出て相互の角度を任意調節し得べくした二本の腕に支持させ、基点プーリーと始プーリーとに亙り巻芯外周を一巻する状態に於いて始ベルトを架設した基点プーリーと末プーリーとに亙り巻芯外周を始ベルトと逆方向に一巻する状態に於いて末ベルトを架設したことを特徴とするスパイラル紙管製造機に係るものでその目的とする所は巻製後の紙管に歪を生ぜしめず始めより真直状に成形せしめると共に糊目の完全に密着した良質の紙管を簡易なる装置により製造せんとするにある。

従来この種のスパイラル紙管製造に当つては目的物を巻成する為めに外方より圧迫巻付するベルトは1本の場合があるものであるが単ベルト式のものでは巻固めが不完全であり糊の密着度も不良となり易く良品を得難き欠点がありその後四個のプーリーにて相互平行状に二本のベルトを使用するものも存するに至つた次第であるが該皿プーリー平行ベルト式のものに於いては単ベルトのものに比して固巻きの効果が期待さるる次第であるが両ベルトの巻方向が同一なる為め巻芯を一方向に弾圧彎曲せしめる傾向がありこの為め紙管も彎曲し歪を生じこれを真直ならしめる為めに糊の末乾燥状態に於いて糊付部を動かすこととなり折角弾圧密着した糊目が隙を生じ不完全化する重大なる欠点を伴うものであると共に更に第一のベルトと第二のベルトとは全く無関係の二組のプーリーによつて架設廻転するものであるから両ベルト中一方のベルトがスリツプした如き場合両ベルトの廻転が異り互に牽制して進行不能に陥る欠点があり更に製品に一部膨上り状態の不良品を生ぜしめる虞がある等種々の誠に大なる欠点を存するものでプーリー式も四プーリー式も何れも大なる欠点あるものとされ更に良好な紙管製造機の案出はこの種紙管の需要激増の現在としては切に待望される所でありこの要望に応える為に本発明は到達され誠に簡易なる装置により容易に従来品の欠点を除去し良品の製造に成功したもので効果誠に大である。

今ここにこれが実施の一例を示した図面に就いて詳説する。1は巻芯で一端をフレーム2に支持された他端は無支持状に架設するものである。3は基点プーリーで巻芯1の手前に矢印方向に廻転すべく装置される。4は始プーリーで基点プーリー3の軸部に基端を軸着する腕6の先端に軸着する。5は末プーリーで基点プーリー3の軸部に基端を軸着する腕7の先端に軸着する。8は基ベルトで基点プーリー3と始プーリー4とに亙つて架設し矢印方向に中間にて巻芯を一巻して廻転するものである。9は末ベルトで基点プーリー3と末プーリー5とに亙つて架設し矢印方向に中間にて巻芯を始ベルト8と逆方向に一巻して廻転するものである。10は内巻紙材、11は外巻紙材で夫々任意糊付けされて本装置に進行して来るもので該紙材は所望に応じて二枚より二〇枚程度まで種々の場合が存するものである。12は製品である。

本発明は以上の如き構成でこれを使用するに当つては紙材10、11を異る方法で巻芯1に対する角度を同一として相互ヅレを存して始ベルト8の巻部13と巻芯1との間に喰込ませベルト8、9を矢印方向に廻転せしめるもので始ベルト8にて第一の巻成並に圧迫糊着をなし次に未ベルト9によつて更に第二回目の圧迫密着を完成せしめるものでベルト8、9の巻芯1に関する巻方が逆である為めに軸芯に及ぼす牽引は+-零となり巻芯1は何れの方向へも彎曲することなく常に真直を保持することができ依つてできた紙管は歪なく常に真直である大なる効果があり斯く真直に進行成形さるる紙管は中間に於いて重合成形せる紙材間に常に動きがなく間隙糊付不良部分の有する余地なきもので頗る良品を得られ又二本のベルト8、9は基点プーリー3によつて常に廻転を同調せしめられるものであるから一方のベルトがスリツプしても他方のベルトは基点プーリー3によつて常に同調せしめられ両ベルト8、9の廻転は常に同一であるから相互関係上相牽制して進行不能に陥るが如き欠点なく、更に両ベルト8、9の不同調に基く製品の一方側への膨上り等の製品の不良化を超す欠点もなく何れの点よりするも良好なる成果を挙ぐるに至つた。

尚本発明に於いては腕6、7相互のなす角度を任意調節し得る様にしたからベルトの伸び加減の調節ベルト掛外しの時の操作、紙材幅、管径の大小等に応じて任意調節することができる等附随的操作に於ける便宜をも考慮したもので誠に効果大である。

特許請求の範囲

1 静止状の巻芯の一側方に一個の基点プーリーを設け該巻芯の他側方に始末二個のプーリーを設備し該始末二個のプーリーを該基点プーリーより出て相互の角度を任意調節し得べくなした二本の腕に支持させ、基点プーリーと始プーリーとに亙り巻芯外周を一巻する状態に於いて始ベルトを架設した基点プーリーと末プーリーとに亙り巻芯外周を始ベルトと逆方向に一巻する状態に於いて末ベルトを架設したことを特徴とするスパイラル紙管製造機。

第1図〈省略〉

第2図〈省略〉

(イ)号図面の説明

一端を機壁2に固定し他端を遊離する巻芯1の一側に二個の駆動プーリー3、3′を、また他側に始末二個のプーリー4、5を設け、これ等のプーリー3′、4および3、5は交叉する腕6、7の両端にそれぞれ取付け、腕6、7は交叉点に取付けた支軸10を中心に開閉する。

そして駆動プーリー3と始プーリー4とにわたり巻芯1の外周を一巻きするように始ベルト8を架設し、駆動プーリー3と末プーリー5とにわたり巻芯1の外周を始ベルト8と逆方向に一巻きするように末ベルト9を架設する。

(イ)号図面

第1図 ベルトを省略せる斜面図〈省略〉

第2図 使用状態の平面図〈省略〉

仮処分決定の主文、事実及び理由

主文

債権者が保証として金五〇〇万円を供託することを条件に、

一 債務者は、別紙(イ)号図面記載のスパイラル管製造機の製造・販売・頒布をしてはならない。

二 右スパイラル管製造機の既製品・半製品に対する債務者の占有を解いて静岡地方裁判所執行官を命ずる。

執行官は右物件を封印その他の方法により、その使用・販売・頒布ができないようにしなければならない。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 債権者

主文と同旨

二 債務者

「本件申請を却下する」との決定

第二当事者の主張

一 申請の理由

(被保全権利の存在)

(一) 債権者は、昭和三九年一二月二三日登録第四三五七二八号スパイラル管製造機の特許権を有している。

(二)a 右特許(以下「本件特許」という)の権利範囲は、別紙特許公報記載のとおり次の五つの構成要件からなつている。

(1) 静止状の巻芯1の一側方に一個の基点プーリー3を設け

(2) 該巻芯1の他側方に始末二個のプーリー4、5を設備し

(3) 該始末二個のプーリー4、5を該基点プーリー3より出て相互角度を任意調節し得べくなした二本の腕6、7に支持させ

(4) 基点プーリー3と始プーリー4とに亘り巻芯1外周を一巻する状態において始ベルト8を架設し

(5) 基点プーリー3と末プーリー5とに亘り巻芯外周を始ベルト8と逆方向に一巻きする状態において末ベルト9を架設した。

b 本件特許の目的は別紙特許公報記載のとおり、

(1) 巻製後の紙管に歪みを生ぜしめず、始めより真直状に製造せしめること

(2) 糊目の完全に密着し、重合部に間隙の介在しない良質の紙管を製造しうること

の二点を簡易な装置によつて達成することにある。

c その作用効果は特許公報にあるように巻製中の紙管12を互に逆に回転する始、末の二本のベルト8、9によつて巻圧すると共に、基点プーリー3を一個とすることにより、特許公報の第二図に示す如く逆行する二本のベルト8、9の巻圧側を相互交叉状となし両ベルトの巻圧位置を可及的に近接せしめる。

そのことによつて、

(1) 始ベルト8と末ベルト9の巻芯1に対する牽引力はそれぞれ相殺され、巻芯1はいずれの方向にも彎曲することなく常に真直な紙管を製造しうる。そのため紙管は後続の自動カツター部への方向を正確に保持し、自動カツター機へ支障なく進入し全過程が自動式となりうる。つまり前記(1)の目的を完全に満足しうる効果がある。

(2) 始ベルト8の巻圧時より末ベルト9の巻圧時までの時間的経過を短縮せしめ、両ベルト間における糊の固着現象を進行させないようにして、紙管の紙材重合部における間隙又は糊付不良部分の生じる欠点を除去しうる。即ち前記(2)の目的を満足すべき作用効果がある。

(三) 債務者は、昭和四七年七月ころより別紙(イ)号図面記載のスパイラル管製造機(以下(イ)号製品という)の製造・販売をなしている。

(四) 而して右(イ)号製品の構成は次のとおり五つの構成要件からなつている。

(1) 静止状の巻芯1の一側方に二個のいわゆる駆動プーリー3、3′を設け、

(2) 該巻芯1の他側方に始末二個のプーリー4、5を設け、

(3) これらのプーリー3′、4および3、5は交叉する腕6、7の両端にそれぞれ取付け、腕6、7は交叉点に取付けた支軸10を中心に開閉し角度を任意調節できるようにする。

(4) 駆動プーリー3と始プーリー4とに亘り巻芯1外周を一巻する状態において始ベルト8を架設し

(5) 駆動プーリー3′と末プーリー5とに亘り巻芯外周を始ベルト8と逆方向に一巻する状態において末ベルト9を架設した。

(五) 右の構成を本件特許の構成と比較すると、本件特許では基点プーリー一個を備えるのに(イ)号製品では駆動プーリー二個を備える点が相違するが、その他は同じである。

そこで本件特許と(イ)号製品との間に作用効果上差異があるかどうかを考えると、本件特許の第一の目的・作用効果である紙管を真直にすることのためには両ベルト8、9の巻圧部における進行方向を逆とすることと、後記の如くして巻圧位置を近接せしめることにあるのであり、その第二の目的・作用効果である製品の糊目が完全に密着し重合部分に間隙の介在しない良質の紙管を製造しうる為には、両ベルトの巻圧時の時間的経過を僅少とすることであり、これが為には両ベルト8、9の巻圧側をして交叉状をなさしめて巻圧位置を可及的に近接せしめることである。債権者はこれらの要請を基点プーリー3を一個とすることにより満足せしめ得たのであるが、該一本の基点プーリーの代りに(イ)号製品のように同一方向に回転する二本の駆動プーリー3、3′を設備した場合も同一の作用効果を生ぜしめ得るのであつて、そのことは二個の駆動プーリー3、3′をその中心を結ぶ線の中点を中心とする大型の一個の基点プーリー3′に転換した場合も全く同様の作用効果を生ぜしめ得ることからも明らかである。

以上のとおり、本件特許と(イ)号製品とはその構成上基点プーリーを一個とするか二個とするかの設計上の微差以外、その構成・目的・作用効果のいずれの点よりみても全く同一であり、両者は全く同一の発明思想にかかるもので、(イ)号製品は本件特許の権利範囲に属するものである。

(保全の必要性)

(六)a 債権者は申請外岡崎機械工業株式会社の代表取締役をしており、本件特許を実施したスパイラル管製造機は右会社の主力商品である。

b 債務者は、本来紙管の製造を業とする会社であつたが昭和四七年五月より(イ)号製品の製造に着手した。

c 紙管製造の業者は極めて限定されており、債務者の(イ)号製品の製造販売によつて申請会社は顧客を奪われ、莫大な損害を蒙るおそれがあるのみならず模造製品が出ることにより信用を失い、これまた多大の損害を蒙るおそれがある。

そこで債権者は(イ)号製品の製造販売禁止損害賠償請求の訴を準備中であるが、仮処分で直ちに製造販売を差止めないと将来たとい勝訴したとしても、それだけでは回復し難い損害を蒙るおそれがあるので本申請に及んだ。

二 債務者の答弁および主張

(一) 申請の理由に対する答弁

1 申請の理由第一項は認める。

2 同第二項のa、b、c((2)を除く)は、本件特許公報にその旨の記載のあることは認める。

3 同項のc(2)は争う。

4 同第三、第四項は認める。

5 同第五項は争う。

6 同第六項のaは認める。

7 同項のb、cは否認する。

(二) 債務者の主張

a 本件特許の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載にあるとおり、一個の基点プーリーとこれに対する始末二個のプーリーを設けた三プーリー式のものであり、かつ基点プーリーを共通にして始末各プーリーの間に始ベルトと末ベルトを巻芯外周を一巻して牽引力の働く方向が巻芯を基準として前後反対となるよう架設したことである。従つて二本のペルトは全体として基本プーリーと始末プーリーにV型に架設される。

ところが(イ)号製品は交叉二本ベルト、四プーリー式の構造であつて、二本のベルトが巻芯の両側に対向して設けられた一組宛のプーリーに各独立して架設され、中間で交叉し全体としてX型に架設されている。

各ベルトが巻芯外周を一巻するように架設されており、始ベルト8と末ベルト9の巻芯から離れる方向、即ち牽引力の働く方向が巻芯を基準として反対側になつている点では、本件特許と同一であるがプーリー数、プーリーの配置、ベルトの架設方式のいずれも本件特許とは構成を全く別にしている。

(イ)号製品には、本件特許の如く基点となるプーリー(二本の腕を出し、その角度を調節する中心となる)は存在せず四個のプーリーは同等にベルトの支持の役目を果たしているだけである。その上、本件特許においては、一個の基点プーリーと明定されていて、四プーリー式を明らかに除外している。

b 本件特許と(イ)号製品とは右の如き構造上の差異があるので、その作用効果も次のとおり異なる。

すなわち、(イ)号製品の方が両ベルトの巻圧位置を無理なく(ベルトの捩れ方に無理を与えないで)かつ容易に(基点プーリーを大きいものと取りかえるというような操作をせずに)、しかもより近く近づけることができる。

このことによつて、(イ)号製品の方が本件特許に優つて、軸芯を反対方向に牽引する力を有効に相殺しうると共に巻圧位置が離れることによつて生ずる欠点(糊の接着が悪くなり紙管にゆるみを生ずる等)を容易に解消しうる。その結果(イ)号製品の方が、紙管製造能力(スピード)において本件特許に比し二倍も多く、しかもできた紙管の品質がよい。また(イ)号製品の方が、細い紙管の製造にも太い紙管の製造にも使える等汎用性が広い。

c 本件特許においては、基点プーリーが一個であるから、二本のベルトの回転速度は同一であることが予定されていて、このことは本件特許の作用効果の一つとされなければならない。

しかるに(イ)号製品においては、二本のベルトはそれぞれ別々に架設されているから、その回転が同調するという作用効果を考えない。むしろ(イ)号製品では駆動プーリー3を同3′より僅かながら太くして、末ベルトの速度を始ベルトのそれより若干速くする。その結果紙管は末ベルトによつてやや強く引つぱられ紙管にしわの生じるのを防ぎ巻締めを完全にすることができる。

d (保全の必要性への反論)

本件特許は、債権者が代表取締役をしている申請外岡崎機械工業株式会社が実施しており、債権者自身は直接特許の実施をしていない。従つて債権者が蒙る損害は、間接的であり、かつ後日において、金銭的に回復しうるものであり、またそれは、債務者の長年に亘る多額の費用をかけた技術努力による研究成果の無用化、多額の経済的損失、業界における信用失墜に比して、僅少と言わねばならない。

第三疎明〈省略〉

理由

一 債権者が、その主張通り本件特許を有すること、および債務者が、債権者の主張通り(イ)号製品を製造していることは、当事者間に争いがない。

従つて、本件仮処分における被保全権利の有無は、(イ)号製品が本件特許の技術的範囲に抵触するか否かの判断にかかることになる。そこで本件特許と(イ)号製品とを対比してその異同を検討する。

二 本件疎明資料によれば次の点について疎明がある。

(1) 本件特許と(イ)号製品とはいずれも債権者主張の構成(別紙特許公報、(イ)号図面参照)を有すること。

(2) 右各構成を比較すると、本件特許は一個の基点プーリー3を有するに対し、(イ)号製品は二個の駆動プーリー3、3′を有する点(したがつて腕木6、7がV型とX型の差があることになる)に設計上の差異が存するが、その他の始末二個のプーリー4、5が存する点、該始末二個のプーリー4、5と該基点プーリー3又は駆動プーリー3、3′とを相互の角度を任意調節し得べくなした二本の腕6、7にその両端で支持させた点、基点プーリー3ないし駆動プーリー3と始プーリー4とに亘り巻芯1の外周を一巻する状態において始ベルト8を架設した点、基点プーリー3ないし駆動プーリー3′と末プーリー5とに亘り巻芯外周を始ベルト8と逆方向に一巻する状態において末ベルト9を架設した点において、同一の構成を有すること。そして本件特許も(イ)号製品も、別紙特許公報第二図、(イ)号図面第二図で明らかなように、二本のベルト8、9がX状に交叉している(この点は腕木6、7の交り方と関係がない)。

(3) 右のように二本のベルト8、9が逆方向に回転すること、二本のベルトがX状に交叉していることによつて、本件特許も(イ)号製品も同様に次の作用効果がある。すなわち、紙管は始ベルト8によつてプラス(+)方向に引つぱられると次いで末ベルト9によつてマイナス(-)方向に引つぱられ、しかも各ベルトの巻圧する位置が近接しているため、右+・-の力が歪を生ずることなく(始ベルト8によつて+の方向へ曲げられ、さらに末ベルト9によつて-の方向へ曲げられるという彎曲をさけて)相殺されて、真直な紙管ができる。また各ベルトの巻圧位置が近接しているため、始ベルト8によつて紙管を一度巻圧した後間隔をおかずにさらに末ベルト9によつてもう一度巻圧するから、紙管は紙材の間にゆるみをうむ余地がなく糊が密着した良質のものがえられる。本件特許も(イ)号製品も右の作用効果において変りはなく、真直で糊の密着した紙管の製造を目的とすることも同じである。ことに真直ぐな紙管ができることは、紙管製造機につづいて自動切断装置を操作することを可能にする。つまり真直ぐであることによつて紙管は後続の自動切断装置への方向を正確に保持し、支障なくそこへ進入することができるようになつた。

(4) つまり(イ)号製品は本件特許における一個の基点プーリーを二個の駆動プーリーに置きかえた構成のものであるが、その作用効果や目的は同一である。しかも債権者は本件特許の考案途上において(イ)号図面にあるような基点プーリーを二個とした試作品も検討したことがあつたが、作用効果が異ならないので簡易な装置として基点プーリーを一個とする本件特許発明に落着いたこと、したがつて(イ)号製品のような四プーリー式は当時の当業者としては容易に考えうるものであつた。

三 もつとも債務者は右認定を争うので、その主張について検討する。

(1) (イ)号製品の方が作用効果がすぐれているという主張(その主張b)について、疎乙第三、第四号証、第一一、第一二号証、第一六号証、債務者審尋の結果は疎甲第四号証、第九ないし第一七号証、第一九ないし第二四号証と対比すると、いまだ債務者の主張bのように(イ)号製品の方が作用、効果において本件特許よりも優れていると認めるには十分でない。実際の紙管製造においては、本件特許の場合も基点プーリーの太さを変えるなどの応用がありうるし、巻圧位置の近接といつても現実には適度があり、また自動切断装置の性能のこともあつて、本件特許と(イ)号製品との間に能力に優劣がないことがうかがわれる。

(2) ベルトの同調に関する主張(その主張c)について。債権者審尋の結果によれば本件特許においては始末の二本のベルト8、9はその回転が同調されるのが原則であつて、そのことは(イ)号製品についても同様であるべきことが疎明される。債務者は(イ)号製品においては駆動プーリー3を同3′より僅かながら太くして、末ベルトの速度を始ベルトのそれより若干速くするというが、その詳細を知りえないので、その作用効果を認めるまでに至らない。

(3) 債務者は債権者がその特許請求の範囲の中に一個の基点プーリーと始末二個のプーリーからなる三プーリー式をあげ、ことさらに(イ)号製品のような四プーリー式を除外したと主張する。しかし疎甲第二号証、第四号証、債権者審尋の結果によれば債権者が本件発明にあたつて排斥したのは四プーリー平行ベルト式のものであつて(イ)号製品のようにベルトを相互に逆方向に回転し、しかも交叉させた四プーリー式のものではないことが疎明されるので、右主張はあたらない。

四 そうすると、(イ)号製品は本件特許発明の構成のうち一個の基点プーリーを二個の駆動プーリーに置換えたものであつて、その相異にもかかわらず作用・効果および目的において同一であり、右置換自体が出願当時において通常の専門家にとつて当然になしうる程度のものであつたということになる。したがつて(イ)号製品は本件特許発明の権利範囲に属し、本件特許発明と抵触するといわなければならない。

五 そこで本件仮処分の必要性につき判断する。

債権者審尋の結果によれば債権者は自分が代表取締役をしている申請外岡崎機械工業株式会社に対し、本件特許の通常実施権を設定しているものの右会社は事実上債権者の個人会社であつて、実施料を受領しておらず、右会社と債権者の利害は同一であること、その他債権者主張のaないしcの事実を認めることが出来る。そうすると、本件仮処分によつて債務者が相応の経済的損失を蒙ることは考えられるが、なお保全の必要性は肯認されるべきである。

六 以上のとおり、本件仮処分申請は理由があるので、債権者に五〇〇万円の保証を立てさせて右申請を認容することとし、主文のとおり決定する。

(別紙省略)

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